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拍手更新しました。

どうも、ひるめです。

拍手更新しましたー今回はジュピマキュのみでお送りします。
あと、あまり細切れにしてしまうのも読みにくいのかなあと思いまして、今回は眺めに区切って1〜5までのみの更新にしてみました。







「マーキュリー。今月に入って、何度目になる」
「さあ……覚えてない、わ」

彼女はそう言って自嘲気味な笑みを浮かべる。
その笑顔が、嫌いだった。
内側の感情を、何もかも押し殺したような、そんな笑顔が。
彼女が顔の表面に浮かべるのは、いつだって偽りの感情なのだ。
そのことに気づくのに、ジュピターは数年を要した。

「9回目だ。9回目だぞ?いくらなんでも――」
「そう、そんなになる?」

わざわざ数えてるの、と言う彼女はそんなことどうだっていいとでも言うようで。
ジュピターは思わず次の言葉を見失った。

「……アンタが倒れるたびに、リーダーに怒られんのは私なんだからな」

ヴィーナスの冷たい瞳が脳裏に浮かび、それを振り払うようにジュピターは首を振る。
まだ、マーキュリーもジュピターも互いに幼かった頃、ジュピターは、初めてマーキュリーに出会った。
そしてそこで、ジュピターは自分に任された役割を知った。
プリンセスの護衛、というのが表向きの使命――そこに加えて含まれていたのは別の使命。
それが今、ジュピターの前にある事実。

「そうね。申し訳ないわ」

ベッドの上にだらりと伸びた腕は、吹けば飛びそうなほど細い。
そして体を支えるはずの足は、その役割を放棄したように力なく横たえられていた。
目の前の彼女がここにいる理由はただ一つ。
その異様なほど高い頭脳を買われた、それだけ。

「……謝られても、困る」

マーキュリーの体は、自力で生きていくことを犠牲にしてその頭脳を手にしたといっても過言ではない。
四守護神の一人だとして紹介された時、さすがのジュピターでも圧倒された。
ベッドに横たえられた小さな身体、それを覆う無数の管、そして周りを取り囲む巨大な機械。
彼女の身辺の一切を任せる、と言われた時、自分の中にあったのは驚愕だっただろうか。
それとも――?
そんなことさえ、ジュピターはもう思い出せなくなっていた。
ただ一つ思い出せるのは、彼女の抜けるように白い肌。
それを見た瞬間、こんなにも美しいものがこの世に存在するのだ、という衝撃を覚えた。
そして、他にそれを見たことのある人間がいるというある種の妬みさえも。

「と、とにかくだ。湯浴みの時間にまた来るから」

無理するな、食事をちゃんと取れ、と最低限の注意だけをつきつけてジュピターは部屋を後にする。
これ以上彼女を眺めていたなら、いつか狂ってしまうかもしれない――いや、もう既に狂っているのかもしれない。
いずれにせよ、ジュピターが自らに与えられた使命から逃れることができぬことに、変わりはなかった。

そのまままっすぐ部屋に戻りかけたところで、ジュピターはふとヴィーナスからの呼び出しを思い出す。
あのサディスティックなリーダーのこと、人を呼びつけておいてただで済ませるわけがない。
嫌な予感を背負いながら、行かなければ更にひどい未来がやってくることも想像がついた。

「……仕方ないな」

だが、誰かと会って話ができることは素直にありがたい。
今のまま独りになったなら、脳裏にちらつく幻に呑みこまれてしまいそうだった。


ヴィーナスの部屋は、ジュピターの部屋から少し離れた場所にある。
その扉をノックすると、返ってくるのはその重さに似合わない軽い音。
それに加えて、どうぞ、と抑揚のない言葉が返ってきた。
ゆっくりと入った部屋には、言いようのない臭いが立ち込めていた。
それは平生からヴィーナスの部屋に特有の臭い。
ジュピターはもう慣れてしまったが、最初に入った時には戸惑ったものだった。

「あら、ちゃんと来たのね」

偉い偉い、と笑う彼女に、ジュピターはどうも心を許すことができないでいた。
もうかなりの付き合いになるはずなのに、まだわずかに警戒してしまう。

「なんだよ」

そちらが呼びつけたくせに、という言葉はぐっと呑みこんだ。
これ以上、自ら状況を悪くするなど、あまり頭の良いこととは言えない。

「いえ……」

ふっと笑うヴィーナスのそれは、マーキュリーのもつ妖艶さとはまた違う。
その艶かしさに心を奪われる者も多いと聞くが、ジュピターには理解できない話だった。
まあ座って、と示された場所にジュピターは腰掛ける。
正面に腰掛けたヴィーナスは足を組み、どこか威圧的な態度でジュピターを見据えた。

「……マーキュリーのことで、少しね」
「マーキュリー? あいつが、どうかしたのか?」

マーキュリーという単語から受ける鋭い刺激。
どう考えても良い知らせではないはずの話題に、何故その名が出てくるのか。
喉の奥に氷を落とされたような衝撃が、ジュピターを貫いていく。

「と言っても、大したことじゃないわ。ただ、今日の夜にメンテナンスが入るというだけ」

一瞬、何を言われたのか分からなかった。
言葉の意味を何度か頭の中で反芻し、そしてようやくその意味を理解する。

「たっ……大したことだろうがそれはっ!」

派手に立ち上がるジュピターに対し、ヴィーナスの瞳はあくまで冷たいままだった。
その瞳に言いようもないほど逆なでされ、ジュピターは唇を噛む。

「……大したことじゃないわよ」
「だから!重要なこ――」
「どこまで入れこむ気?」

驚くほど冷たく言い捨てられて、それでもジュピターは怒りを抑えられなかった。
そんなに大事な話が、自分抜きで進められていることにも。
そして、恐らくは当の本人には知らされていないであろう、という事実にも。

「誰にも、どうしようもできないことだわ」
「分かって、る」

ヴィーナスの冷たい攻撃に耐えながら、浮かべたのはマーキュリーの笑顔だった。
自嘲気味な――いや、自嘲しているのは真実だろう――笑顔。

「……じゃあ、さっさと覚悟を決めるのね」

とどめを刺すかのごとく、ヴィーナスが吐き捨てた。
その態度も、声も、表情にすら嫌悪感を覚え、ジュピターは荒々しくヴィーナスの部屋を去る。

「……こんなことして、ただで済むと思うなよ」
「もともと無償で済むなんて思ってないわ」

捨て台詞のつもりが、思わぬ反撃を受けた。
ヴィーナスの言葉の端ににじんだ感情を、人はなんと呼んだだろう。
ヴィーナスの部屋に漂う独特の匂いが身体から消えた頃、ようやくジュピターは歩を緩めた。
まだ頭の芯はぼうっと熱を持っているが、それでもヴィーナスの部屋にいた時よりはましだった。

「メンテナンス、か……」

呟いてから、自分ではどうにもならない現実に身震いした。
メンテナンス――柔らかく言えば健康診断、とでもいうのだろうか。
他の戦士ならば、なんのことはない。
変な病を抱えていないか、肉体的にも精神的にも戦闘に耐えうるか、その程度の診断で、すべては完了する。
病にかかっていたところで、月の技術があればほとんどの場合完治させることは造作もない。
問題は、マーキュリー――彼女の場合、身体を構成するのが自身の肉体だけではない、ということだった。
というよりも、彼女自身のパーツが残っている部位の方が数えるほどしかない。
透き通るような肌の下に隠れているのは、彼女の生命を維持するために付け加えられた数えきれないほどの人工臓器。
四肢を補助するための筋肉も、聞いたことはないがもしかすると血管も。
純粋に彼女自身のパーツが残っている部分は、はたして存在するのかどうかも危うい。
その昔、聞いたこともあった気がするが、忘れてしまうほど遠い昔のことだ。

「……くそっ」

それがただ壊れかけている部品を交換するといった単純なことならば、ジュピターでもここまで動揺はしない。
事実、一度目のメンテナンスの際には、ジュピターもそこまで事を重くとらえてはいなかったのだ。
しかし、その認識が甘かったことをジュピターは後に悟ることになる。
メンテナンスと称された行動の裏で、何が行われているのか詳しくは分からない。
ただ、ジュピターに分かるのは、彼女を侵食する部品の増殖と、それに反比例するかのように消えていくマーキュリーの瞳の光。
武闘派のジュピターにとってそれは、言葉に表すにはあまりにもわずかな違和感だった。
マーキュリーは、メンテナンスのたびに何かに身体を侵食されている。
それが、何度目かのメンテナンスを終えて、ジュピターがたどり着いた結論。
その予想が確信に変わったのはこのことをヴィーナスに問い詰めた時だった。

――あの子はもともとそう長くは生きられない身体だったのだから……仕方ないじゃない。

いつも以上に気が立っていたジュピターに観念したのか、ヴィーナスは低い声でそう言った。

――あの頭脳はね、その他の身機能を犠牲にするからこそ得られるものなの。だから私たちは、彼女の頭脳のために彼女の命を永らえさせなくてはならな

い。

マーキュリーの頭脳は、月の人間のそれと比べても並外れて回転が速い。
水星に生きる人間の中でも、敵うものはいなかったと聞く。
その代償として、彼女の身体は命を削ることを選択した。
だが、四守護神としてはそうそう死なれては困る――。
そこでヴィーナスをはじめとした月の人間が施したのが、マーキュリーの頭脳を生かしながら、彼女自身を生き長らえさせる方法。
ヴィーナスはヴィーナスなりに、考えがあってのことだということも知っている。
だが、その理由を聞いたところでヴィーナスたちがやっていることを許せるかと言えば、別の話。

――だからといって、止めるわけにもいかないでしょう。

その時聞いたヴィーナスの言葉を反芻し、ジュピターは何もできない自分に拳を握りしめた。

「そんなことは、分かってんだ」

独り言ちて、ジュピターは廊下の壁に拳をぶつける。
ヴィーナスが悪いわけでもない、誰が悪いわけでもない。
強いて言うなれば、こんな時代に四守護神になるために生まれてしまった運命が悪いのかもしれない。
しかし、そんなことだってジュピターにはどうだって良かった。
また、マーキュリーが遠くなる。
いつまでその事実に、耐えられるだろう。


*   *   *


ドアの向こうで何者かが動く気配を察し、マーキュリーは読みものをしていた手を止めた。
ジュピターかとも思ったが、彼女の歩みはこんなにこそこそとはしていない。
それはヴィーナス、マーズも同様で。
つまりは、今外にいるのが四守護神の誰でもないということを瞬時にはじき出し、マーキュリーは一人身構えた。
静まり返った室内に、遠慮がちに落とされるノックの音。
力尽くで侵入するつもりはないらしいが、それでも完全に気を許すことはできない。

「どうぞ」

マーキュリーの声に反応し、ドアの鍵がカチャリと外れた。
それが開くと同時に顔を覗かせたのは、見慣れた部下の一人だった。

「……何か、用?」

部下がわざわざマーキュリーの部屋にやってくるのは、何らかの報告があったり相談がある場合に限られる。
だが、今日はさほど仕事もなかったはずだ――一体、何だというのだろうか。
訝しげに眉をひそめるマーキュリーに対し、その部下はゆっくりと
部屋に親友してくる。

「明日0時にあなたのメンテナンスを行うことが決定いたしました」

その報告に、と言う部下。
彼の発した、"メンテナンス"という単語にマーキュリーの脳がぴくりと反応する。

「メンテナンス……?聞いてないわ」

今までのメンテナンスも確かに唐突なことは多かったが、それでも1日ほどの猶予は与えられていた。
それが、今回はあと1時間も残されていないとは。

「おや、おかしいですね……てっきり聞いているものかと思っていましたが」

そう言う彼の声は、単調でまるで感情がないかのようだった。
瞳の色は心なしか褪せているようで、その奥に広がるのは一筋の光さえ見えない闇だった。
その異様な視線に、マーキュリーははっとする。

「あなた、感情が……?!」
「おや、よくわかりましたね。さすがはマーキュリー様」
「どういう、つもり」

せめてそこで否定の一つでもしてくれれば、わずかでも動揺してくれれば。
マーキュリーのそんな期待は、あっさりと砕かれる。
つまり、彼はすでに"メンテナンス"とやらを施された後の人間だということで。

「何も難しいことはありません……あなたも明日には私と同じになっているというだけのこと」
「……?!」

呆然としながら、マーキュリーの脳の一部はフル回転していた。
感情消去、その計画自体は小耳にはさんだことがある。
しかし、あの時自分は激しく拒否したはずだ――そして、ヴィーナスもそれを認めてくれたはず。
人を呼ぼうとしたマーキュリーの試みは、しかし成功しなかった。

「ぐ……ぁがっ」

目にも止まらぬ速さで、マーキュリーの首は締め上げられていた。
的確に声帯機器を握りつぶしてくるその力に抗うことさえできず、マーキュリーはされるがままになるほかない。
それでも、マーキュリーは最後の抵抗を試みようと、器械に覆われた腕を何とか持ち上げる。

「……貴様、動けるのか」
「少しは……ね」

言葉とは裏腹に、向うの声には微塵の驚きも見えない。
それでも首を絞める力が少し緩んだところを見ると、感情消去の術は完全ではないのかもしれない。
その隙をついて、マーキュリーは貧相な腕の力を最大限使い、男の頭に頭突きを食らわせた。

「がっ……」

まさか頭から攻撃されるとは思わなかったらしく、その一撃は男の頭部に直撃した。
男がひるんだ隙に、マーキュリーは男の後頭部に思い切り左手を突っ込む。

「あなた……やはり、端末の人間ね」

金属と金属がぶつかり合って音を立て、男が苦しげにもがいた。
端末の人間――自らの意識を直接ネットワークに接続して情報を集めることのできる、月の技術の結晶ともいえる人間の一人だ。
半分機械のようなマーキュリーにも、もちろんその能力は備わっている。
そして、その能力の一番の特徴は、端末の人間同士で通信を行うこともできるということ。

「侵入する気か……」

マーキュリーのアクセスを妨げようと男が動くが、マーキュリーにかかれば侵入できない端末などない。
必死に抵抗する男の暗号をかいくぐり、マーキュリーは彼の記憶を保持する部位にたどりつく。
彼に何が起きたのかを、知るために。

「な……」

無理やり侵入した先で流れ込んでくる男の記憶は、マーキュリーが想像した事態よりずっと深刻だった。
これを放置しておくわけにはいかない、そこまで考えたところで、ばちりと音を立てて断ち切られる接続。
物理的に引き離されたのだと理解する間もなく、マーキュリーの身体は床に投げ捨てられる。
床に打ち付けられて身体の部品が悲鳴を上げる。
飛びそうになる意識を繋ぎ止め、マーキュリーは何とか身を起こした。

「あなたに、抵抗する術はない」
「……そのようね」

冷たく響く男の声。
その腕に抱え上げられて、今度こそ抵抗することができない。
そのままベッドに放り投げられ、元あったように繋ぎ直される配線。

「受け入れてください……それがあなたの運命、なのですから」

あくまで変化しない表情。
抑揚のない声が耳を貫き、マーキュリーは視線だけで男を射抜く。
そんな視線など意に介さない様子で、男は踵を返す。

――どうすることも、できない。

悔しいが、認めるほかない。
今からできることなど、限られている。
無理をしたせいですっかり動かなくなってしまった四肢に、マーキュリーは一人歯噛みした。
posted by ひるめ | 23:10 | 拍手ログ | comments(0) | trackbacks(0) |
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