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二人ぼっち
ひるめです。
まこちゃんがまだ「レイちゃん」と、レイちゃんがまだ「まこちゃん」と呼んでいた頃の雪の日のお話。






最低気温、氷点下3度。
当たってほしくない時に限って、天気予報は当たるらしい。
かじかんでそろそろ感覚がなくなってきた指先を擦りながら、レイはため息を一つ。
失敗だった。
珍しく一人で遠出でもしてみよう、と思い立った何もない休日のはずが、こんなことになるとは思いもしなかった。
日も落ちて、じんわりと冷気が辺りを覆い始めた頃。
そろそろ帰ろうと手袋を取り出しそうとして、レイはようやくポケットの軽さに気づいた。
日中の暖かさも手伝って、さっさとポケットにしまっていたはずの手袋は、そこにはなかった。
そんなに愛用していたわけでもないが、そのまま忘れ去るのも気が引けた。
何より悴んで痛みさえ訴え始めた指に、来た道を戻ろうと決意したところまでは良かった。
下ばかり向いていたせいか、顔を上げた時に広がっていた風景は全く見覚えのない場所だった。
昼ごろからの雪のせいで、街が見慣れぬ色に染まっているだけだと最初は思った。
しかし、街の匂いは明らかにレイの知るそれとは違い、そこでようやく迷ったのだと気づく。
途方に暮れて見上げた空は、雪をちらつかせる雲に閉ざされて星さえ見えない。
慣れない街の中を凍えながら彷徨うこと更に数分、とある声にレイは足を止めた。

「――イちゃん?」

そんなはずはないと、一度目は聞き流した。
だが、二度三度と繰り返される自分の名前と、その声に既視感を覚えてまさかとレイは振り返る。

「はは、なんて顔してんのさ」

よ、と片手を上げて、向こうから現れたのは、まさにレイの脳裏に浮かんだ人物その人。

「……なん、で」
「それはこっちのセリフだよ」

そう言うまことは不思議とこの街に馴染んでいるようで、レイをますます混乱させた。
あなたも迷子なの、と間抜けな質問をしてから、それはないなと思い直した。
まことの纏う雰囲気はちょっと散歩に来ました、とでもいうようで、不安など微塵も感じない。
ではなぜここに、という問いは、急に零れたまことの笑い声によって消し去られた。

「あはは、レイちゃんが迷子って、珍しいね」
「そ、そんなに笑わなくたっていいでしょう?」

茶化されたせいなのか何なのか、頬に上る熱い感覚。
日が暮れ去った後で良かった、と思った。
染まった頬を、彼女に気づかれなくて済む。

「ごめんごめん、いや、本当に意外だったからさ」
「私だって、道に迷うことくらいあるわよ……」

じゃあ一緒に帰ろうか、という提案に、一瞬だけ迷って頷いた。
あの手袋は、どこかの誰かに拾われるのだろうか。
それとも、ゴミとしてどこかで灰に成り果てるのだろうか。
そんな様子がちらりと過り消えていったが、たかだか一つの手袋のことに彼女を巻き込むことはできない。
気づけば、白く覆われた歩道の上に、レイを導くように点々と彼女の足跡が落ちていた。
薄闇の中で、レイはそれを辿るように踏んづけた。
数歩先を行く足取りはどこか余裕さえ感じさせて、この街は初めてではないのだという予感が確信に変わる。
その一方で、その背中はどこかこの街から浮いているようで、レイより余程迷い子のようで、しかしどうしてなどとは聞けなかった。
大通りに差し掛かったところで、ようやくまことの輪郭がはっきりするくらいには街灯が増える。
柔らかい橙に照らされた交差点を、凍みた道路に慎重になった車たちがのろのろと過ぎ去っていく。
突然、強い風が交差点を吹き抜けた。
それと同時に、斜向かいで大袈裟な驚きの声が上がる。
何事かと目をやれば、男女数人ずつが入り交じった信号待ちの集団が映った。
恐らくは合コン帰りとかそういった類の集団だろう。
視界を確保するために髪をかき上げ、低俗、とレイは密かに眉を顰めた。
その手に触れる、髪とは別の柔らかな感触。

「どうしたんだよその手、真っ赤じゃないか! 手袋とかしてこなかったのかい?」

しまったと手を引っ込めたが遅かった。
わざわざ黙っておいたのに、聡い彼女には隠し事などできないらしい。
こんなところで誤魔化したところで、きっと押し問答になるだけだろう。
そう観念して、レイは口を開く。

「……無くしたのよ」

レイの言葉に、更に彼女の目が丸くなった。
自分のことでもないだろうに、労わるように触れてくる手袋越しの感触に心がさざ波立つ。
ほら、と手渡されたそれは、笑ってしまうくらいレイの予想通りだった。
これを受け取ってしまえば、今度は彼女の指が寒さに凍えるだけだというのに。

「いいからつけなよ。あたし、カイロ持ってるしさ」

そういう問題ではない、素直に受け取ることはできなかった。
それはレイの矜恃だった。
受け取れ、要らない、と道端で応酬する姿は、傍から見れば滑稽な二人だっただろう。
だが、本人たちは至って本気で、どちらも譲らないままの平行線。
埒が明かないと盗み見た信号が、ふっと青に変わった。

「まこちゃん、信号」
「え? あぁ」

ちら、とまことの視線が信号を行き過ぎたように見えた、それは気のせいだったのだろうか。

「もう、分かったよ」

一度はレイの手に渡った手袋がまことの手に戻り、折れてくれたかと思ったのもつかの間。
ぐいと片手に被せられる片割れと、力強く引かれるもう一方の手。
さもそうすることが自然だという風に、まことはレイの手を自分のポケットに収めてゆるりと笑んだ。

「こうすれば、一つで済むだろ?」

まるで息をするかのような行為だったが、状況を認識していく中でじわじわと上昇する体温を止められない。

「ほ、本気……っ?!」

当然のように歩き出そうとする彼女に流されそうになるのを、慌てて制止した。
片手が繋がったままの状態で、まことの体がよろめいた。
急かす様に歩行者用信号が喚く。
斜向かいの集団の喧騒が近づく。
それらがまるで遠い世界の出来事に思えた。

「ちょっと待ってったら」
「なんだよ、これしか解決方法はないだろ?」
「だから! まこちゃんが素直に手袋してくれれば収まる話でしょう?」

力尽くで引き抜こうとした片手は、彼女に絡め取られただけだった。

「いいから、しててよ」

一段低くなった声に、有無を言わさぬ圧力が見え隠れする。
懇願にも似たその音に、レイは思わずまことを見やった。
レイに注がれていると半ば確信していたその視線は、どこか別の場所へと繋がっている。
数十センチほどの距離が、どうしようもなく遠い。

「……まこちゃん?」

レイがそろりと呼ぶと、はっとしたようにまことに色が戻った。

「手、繋いでてよ」

白と黒の縞模様が、今日は凍り付いて真っ白だった。
もう、レイがまことの足跡を追うことはない。
並ぶ二人の後ろを、連なっていく平行線。
何でもない風を装って、どうでも良いことばかりが彼女の口から滑り出す。
その横顔に、どうしてそんなに泣きそうなの、とは聞けそうになかった。
やがて見覚えのある看板を遠目に認め、ようやく帰ってきたのだと安堵する。
感謝を述べようとしたレイより早く、逃げるように離れていく温もり。
あんなに強情に掴まれていたはずの手が、呆気なく放り出された。
手元に残ったのは小さなカイロ、それっきり。

「あたし、こっちだから」

外気に熱を奪われて、カイロが急速に冷えていく。
掌に舞い降りた雪に彼女の感触が、溶けていく。
迷子ではなくなったはずなのに、帰り道が分からないの、とぶつける相手はどこにもいなかった。






毎日寒いですね。どうもひるめです。
王道で喧嘩ップルなまこレイでも書こうかなーと思っていた……はずなんですが。
まだまだレイちゃんもまこちゃんもお互いに一歩踏み込めずにいる、そんな時期。
私の書くまこちゃんはわりとずるずるセンパイを引きずりますね、仕方ないですね。
posted by ひるめ | 23:28 | まこレイ | comments(0) | trackbacks(0) |
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