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染みる
とある方からいただいたお題で一つ。
くだらないレイ亜美にしようかと思いましたがやめました。






不器用ね、と響く声に、非難の色は見られなかった。
むしろ、彼女はその状況に表情を綻ばせた――ように見えた。

「自分で、できるわ」
「いいから座ってなさいよ」

おろしたてであろう白があっという間に染まっていくのを見ながら、再度口にした制止の言葉は呆気なく流されていった。

「そんなに丁寧にやらなくたって」
「いいから」

見ているこちらが申し訳なくなるほどに、レイの指が、その手に握られたタオルが、汚れを落とすために何度も往復する。
その様子を目に映しながら、今頃向こうはどうなっているのだろう、と頭の片隅で思った。
薄布一枚隔てた向こう側から、人々の会話がさざめきあい、混ざり合ってさらさらと響いてくる。
その中でてんてこまいになっているであろう友人たちを思いながら、そろそろ戻らねばと立ち上がろうとしたところをまた阻止されて。

「まだ?」
「反対側、落ちてない」

言われて目をやれば、たしかにそこも朱に染みていた。
その一言い置いて、彼女の指がそこに移動したのを感じながら、亜美は小さく息をつく。
あれから、ずいぶんと時間が経ったように感じた。
事の発端は、本当に些細な出来事だった。
年に一度、退屈な日常を過ごす教室に活気が溢れる数日間。
御多分にもれず、亜美のクラスも何か出し物をしようという話が持ち上がるのは当たり前の流れ。
お化け屋敷だのゲーセンだのと例年と似たような案があがる中で、結局皆が妥協した点が喫茶店。
ウエイトレスなんて柄じゃないし、とはいえキッチンを担当できるほど料理の腕に自信があるわけでもないし、とぼんやり迷っていたら、気づけばウエイトレス組に入れられていた。
曰く、木野からの推薦、とは。
けれど特に拒む理由もなく、それならそれでと迎えた当日、オムライスと注文を受けて、運んでいったのが先ほどのこと。
そしてその数分後、客の一人が使おうとしていたケチャップの容器の蓋が緩んでいて、悲劇と呼ぶには取るに足らない、小さな事件が起きた――それだけの話のはずだった。
それでもかかってしまった量は結構なもので、怒りなんかよりも驚きが先にきた。
謝る客に戸惑う亜美をフォローしながら、これが制服でなくて良かった、とまことは困ったように慰めてくれた。
そのまま控室に押し込まれ、けれど昼間の時間帯で軽く混み始めていた店内に結局まことも呼び戻されてしまった。
とりあえず染みにならないように、最低限落としてくれたら大丈夫だから、と亜美を置いて彼女は行ってしまった。
染み抜きなんてやったことがないとも言えず、ケチャップの主成分を思い返しながら何を使えば落ちるだろう、と途方に暮れたところへ、ひょっこりと顔を覗かせたのが他校の生徒であるはずのレイ。
亜美が接客しなかっただけで、教室の片隅にはいたのかもしれない。
それならそれで一言かけてくれれば良かったのに――そんな想いがじわりと滲みそうになって、慌てて視線を逸らした。
まことに頼まれて、と相変わらず余計な言葉を持たない彼女は、亜美がやんわりと止めるのも聞かず、亜美の着ていたユニフォームに手を添えた。
それから数分、いやもう数十分になるか、彼女の指先はまだこうして赤い染みと戦っている。

「レイちゃん……ねえ、もういいでしょう?」
「……まだ、よ」
「クリーニングにも出すし、ある程度で」

いくら亜美が声をかけても、レイは手を止めようとしない。
それどころか、その指先は先ほどよりも力を増したようにさえ見えた。
それがやり場のない怒りをぶつけているようにも映って、亜美は思わず問う。
怒っているの、と。
その予感は往々にして正しく、そしてそう問うことでレイが更に苛立つのだろうということを、亜美は知っている。
けれど、問わずにはおれない。
今もまた、亜美の一言に、レイの指先が熱を帯びる。

「亜美ちゃんは、人が好すぎるのよ」

吐き捨てられたその回答は、ますます亜美を混乱させた。
今この状況と、人が好いということに何の関係が、と、それは純粋な問だった。
そんな亜美に何を思ったか、レイは大きな息を一つ吐いて、そして低い声で告げる。

――あの客、狙ってやってたわ。

レイに言われるまで、そんなことは考えもしなかった。
まさかと否定しようとすると、そういうところが、とレイの言葉に苛立ちが滲む。

「何も分かってないのね」

両肩を拘束する、彼女の腕の重みを感じながら、ぶつかりそうになった視線はすれすれで逃げていく。

「レイ、ちゃ」

ん、という音は甘さに溶けた。
一瞬のことに、拒むという選択肢は弾けて消える。

「今だってホラ、私のこと」

拒まないじゃない、と。
耳元の柔らかなところから、レイの声が直接侵入してくる。
彼女から生まれた波が、そのまま脳に響いてくるような。
しゅる、と片方の髪の毛を、彼女の指が弄ぶ。

「や、ぁ」

偶然のように見せかけて、意思を持った温度が亜美の耳たぶを掠めて消える。
その指が、自分の耳に触れている、その事実だけで腹の底に熱が宿った。
ここにもついてるわ、と届いた声は普段より一段低い、ような気がした。
やめてと口をついて出そうになった言葉は、戯れるレイの指に盗まれて。

「――――ッ」

油断した瞬間に、差し込まれる指ではない温かさ。
拒み切れずに受け入れてしまったが最後、流されるしかなかった。
ここが学校で、心もとない目隠し程度の布の向こうには変わらぬ日常が流れていて、そんなことを考えなければならないのに。
全てを支配する水音に、現実を映すその目を閉じた。
そのまま、洞穴のような視界の中で、ただ彼女が動く音だけを聞いていた。
声だけはと指を噛んでいたことは、時間差でやってきた痛みで知った。
軽やかな風が吹き抜け、ざわざわと耳に届く声が不意に鮮明になる。
けれど、彼女の体温が完全に離れるまで、視界はそのままにしておいた。
うすらと焦点を合わせた世界に、レイは変わらずそこにいて。
満足したように一歩退いた踵に、何か言おうと息を吸う亜美の唇を一瞬啄んで、レイは今度こそ満足したように目尻を下げる。

「……終わったわ」
「え、と」

くるりと向けられた背に、かける言葉だけがすっぽりと抜け落ちてしまったようだった。
ユニフォームに残る淡い桃色は、クリーニングなんかでは落ちないかもしれない、と思った。






どうもひるめです。
いただいたお題は「ケチャップ染めのユニフォーム」、でした。
目指せ角砂糖10個増量!!と勝手に思いつつ書いてみたところ、なんだか方向を間違えたような気もしないでもない今日この頃。
posted by ひるめ | 22:13 | その他(セラムン) | comments(0) | trackbacks(0) |
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