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時を止めて
どうもひるめです。
Twitterでいただいたお題で一つ。まこ亜美です。





はらりとこぼれ落ちた、それは一片の花弁のようでもあった。
けれどここは屋内で、風が迷い込んでくるような窓もない。
何より、それは花弁には少し大きすぎた。
それを見つけたのはちょうどまことの部屋で捜し物をしていた時だった。
普段は気にもとめない机の裏側に眠っていたそれを見つけたのも、だから本当に偶然だった。
日に焼けて全体的に褪せた表紙には、いかにも幼児向けといった動物の絵が並び、一様ににこにこしている。
その可愛いとも不細工だとも言い難いキャラクターたちには、亜美も遠い昔出会ったような記憶がある。
その堅い表紙に手をかけて、そこでほんの一瞬躊躇って。
アルバムなんかの類ではないのだから、見られて怒るようなこともないだろう――。
そんなことでは誤魔化しきれない後ろめたさが亜美の指を止める。
けれど結局それも一瞬、亜美が力を入れるとそれはぱら、と軽い音を立てて開いた。

「あっ……」

そしてその拍子に、頁と頁の間から鮮やかな色たちが床へふわりとこぼれた。
目の端に捉えただけでは何か分からなかったが、拾おうと屈んだところでようやくその正体を亜美も理解する。
片側の面だけ赤や青や黄色に染められた、正方形の紙切れ――折り紙なんて、目にするのは何年ぶりだろう。
その中で、一つだけ正方形ではない形を認めて、亜美はそっとそれを手に取る。

「ネクタイ……?」

懐かしさと共に拾い上げたその形を、亜美はついぞ家族の中で見ることはなかった。
父親は絵描きでネクタイなど締めるような人ではなかったから、小学校の頃、友人の描く父親の絵に当たり前のように登場するそれを、不思議な気持ちで見ていたように思う。
どうしてネクタイなのだろう、と裏返したのは、本当に純粋な疑問からだった。
目に飛び込んでくる、黒いクレヨンの線。
後から思えば、脳がその意味を解する前に、視覚から一切の情報を遮断すべきだった。
けれど一度瞼の裏に焼き付いた記憶は、今更消えてはくれなかった。
拙い文字。
太く不器用な線は、おとうさんへ、と書かれていた。
その下にまこと、と署名をした、当時彼女は何歳だったのだろう。
見てはならないものをうっかり目にしてしまったような気まずさで、亜美は急ぎそれらを拾い集めて本に戻す。
できることならこの記憶も巻き戻してくれればよかったのに、悲しいかなそんな魔法は存在するはずもない。
いつもなら鍵の開く微かな音で気づくはずのまことの帰宅を、今日は部屋を揺らす低い音で知った。
まだ手の中に一つ残っていたそれが、まるで生きているかのようにこぼれる。

「亜美ちゃん、ただいま」
「あ、お、かえり」

しまった、とそれを目で追った亜美の目は、一体どんな色をしていたのだろう。
本を支える掌に、じわりと熱が広がる。

「珍しいね。何してたの?」

彼女のきょとんとした顔が、更に亜美の罪悪感を募らせた。
手の中のものが持つ記憶は、他人である亜美がほんの出来心で、もしくは好奇心で、といった顔で踏み込んでいいものではなかった。
少なくとも、亜美にはそう思えて。

「えっと、その……探し物、を」

していたら、別のものを見つけちゃって。
嘘まではいかない、けれど真実でもない、そんな言葉で誤魔化しそうになって、そんな自分を握りつぶす。

「これを、見つけたの」

亜美が隠そうとしたところで、その本は確かに亜美の手元にあるのだ、まことの視界に入らなかったはずがない。
観念して、それを差し出すと、まことの眉がひょいと上がった。

「あれ、その本」
「あと、これ」

ごめんなさい、と言葉を添えて亜美が差し出したそれを、まことがそっと受け取る。
ゆっくりとした間を置いて、なつかしいな、と彼女の目が細くなるのを見た。
彼女の横顔に、旧友に偶然出会ったかのような懐かしさを見て、亜美は言葉を失う。
もう一度、ごめんなさいと口を突いて出そうになった、それを制したのはまことの瞳だった。
とりあえずお茶でも淹れるよ、とまことが差し出した掌に、亜美は結局受け止められてしまうのだ。


*   *   *


厚手のカップがじんわりと熱を伝える。
それを両手で包みながら、亜美の視線は机の角を挟んだ隣に座る横顔に注がれていた。
まこと自身はというと、日に焼けて頁の角も丸くなったその本を、一枚ずつ丁寧に見つめていた。
やがて折り紙たちが挟まれた箇所に差し掛かると、まことが何か思いついたように、あ、と呟いて。
溢れる色彩の中から、彼女の細い指が淡い緑を選びとった。

「昔……なんだったかなあ、幼稚園で父の日のことをやった時かな」

贈り物なんて思いつかなくて、そこでお母さんに教わったのが、きっとネクタイの折り方だったんだと思う。
その思い出話は亜美に聞かせるためなのか、それともただの独り言なのか。
特に相槌を打つような話題でもなく、亜美はその話の傍に座っていた。
改めて眺めてみれば、幼い頃彼女が折った方は、角も鈍く変形していたし、左右も対称とはお世辞にも言い難い。
けれど一生懸命に折ったのだろうということだけは、そこかしこに残るよれた跡が物語っていた。
それを横目に、同じ形がもう一つ。
どうだったっけ、とのつぶやきとは裏腹に、その指は迷いなく動き、彼女の手の中で器用にネクタイが形作られていく様を亜美は眺めていた。
その昔、父を想って紙を折った指はどのような形をしていたのだろう、と今のそれに重ねて思う。
数分とかからず完成したそれを首元にあて、こうやって喜んでくれて、とまことが微笑んだ。
会ったこともなければ、写真で見たことさえない彼女の父親も、きっとこうやって笑うのだろう。
その姿に、ふと独りだ、と思った。
この空間には二人がいるはずなのに、どうしようもなく独りだった。
思うより早く、手を伸ばしていた。
少し大きなまことの手を、両手に包んで引き寄せて。

「亜美ちゃん?」

まことの声に気づかされて、そこでようやく自身の胸元にまことの手があることに気づいた。
彼女にとっての何に代われるわけでもないのに、一体何をしているのだろう。
意識した瞬間、手の中にある彼女の温かさにどきりと心臓が跳ねる。

「違うの……ええと」

言い淀む亜美の様子に何を思ったのか、まことはもう片方の手で亜美の両手を包みながら。

「ふふ、似合ってる」

そう微笑んで、あぁでも、と亜美の中からするりと離れていく。
名残惜しさを感じさせない、優しさを持った離れ方だった。
一度完成したネクタイは、彼女の手によってするすると解かれて二次元に返った。
幼い頃は、折り方一つで何だって作りだしてしまう大人の指先を、それこそ魔法でも使えるのではないかと思っていたけれど。
今のまことは、まさにあの頃亜美が思い描いていた魔法使いそのものだった。

「ほら、できた」

満足げに微笑んだ、その手から現れ出たのは。

「……リボ、ン?」
「そ。あ、こうすると蝶ネクタイみたい」

自分で作ったそれを亜美の首元に掲げ、まことがへにゃ、と顔を崩す。

「亜美ちゃんにはこっちの方が似合うかな」

まことの笑顔に、言葉に、声に、全身の温度が上がっていくのが分かった。

「はは、顔真っ赤だよ」
「だ、誰のせいだと……」

持て余す熱に余裕を無くす亜美の、精一杯の反論をごめんごめんと受け止めながら。
まことがすっとその目を細める。

「亜美ちゃんは、そのまんまでいてよ」
「え?」

いつもより、少しだけ低い声。
どうしていつも、彼女は亜美の欲しい言葉を、そのままくれるのだろう。

「そのまんまでさ、ここにいてほしいなぁって思うんだ」

答えようとして、喉が詰まった。
無理やりに言葉を生み出そうとすれば、きっと別のものが瞳から零れ落ちてしまうから。
答える代り、まだ胸元にあったまことの手をそっと包んだ。






どうもひるめです。
1シーズンに二度もインフルにかかり、インフル双六ですね!と言われました嬉しくないです…。
みなさんもワクチンちゃんと射ちましょうね!ってことで…あ、話と全然関係ない話題になっていまいましたが。
いただいたお題は「ネクタイ」でした。
ネクタイというと…まあ縛って云々って話が真っ先に浮かぶかと思うんですが私にはね…あだるてぃー過ぎて書けないです…ってことで…こんなお話に。
本当に数年ぶりに折り紙なんぞ折りました。ハイ。
ネクタイと蝶ネクタイ
posted by ひるめ | 23:48 | まこ亜美 | comments(0) | trackbacks(0) |
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