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知らなきゃよかった
亜美ちゃんが体調悪いだけのお話。
体調悪い時にりんごは定番。






ぺたん、とベッドに腰を下ろした瞬間に、これはまずいと直感した。
自分の身体や頭がこんなにも重たいものだとは知らなかった。
そのまま横向きに倒れ、90度傾いた景色の中でぼんやりとどうしよう、と息をつく。
柔らかな夕刻の光さえ今は刺激にしかならず、亜美はゆるゆると瞼を閉じた。
こんな時に限って母親は夜まで仕事で、とはいえ体はまともに動いてくれそうにない。
母親に連絡を取るのも申し訳ないし、と思考は鈍く堂々巡りを続ける。
どくどくと脈打つ瞼の裏の世界でしばし悩んだ後、亜美はようやく近くにあった携帯電話を手に取った。

「……誰、か」

拙い動作で連絡先のデータをたどりながら、か行で止まった指に気づいてとくんと心臓が跳ねる。
一番家事ができるからとか、一人暮らしだからとか、そんな理由では説明できない何かが存在を主張した。
けれどそこに向き合うことをやんわりと避けて、更に画面をスクロールして。
やがて、は行で目に入ったその名に、連絡をとる決意をした。

「もしもし? どうしたの?」
「ん……ちょっと」

今の状況を説明しようとして、回らない頭がぎりりと軋んだ。
だが、その数秒でレイには十分だったらしい。
耳元で呆れたように息が漏れた音がして、大丈夫じゃなさそうねと一言。

「ちょっと、動くのも、辛くて」

亜美ちゃんが電話してくるんだからよっぽどなのね、という彼女の言葉は否定できない。
むしろはっきりと形にされたことで、身体の怠さは実感となって降ってくる。

「今日は、おうちに誰もいないの?」
「……えぇ」
「そう……」

でも、今日は用事があるのよね、と、それは困った表情が細部まで浮かぶような声音で。

「それならいいの……大丈夫だから」

言いながら、これからを一人でどう過ごすかに思考はシフトする。
母親が帰ってくるまでここで横になっていても、恐らく死にはしないだろう。
そんな思考を遮る、レイの一言。

「どうして……」
「……何?」
「ううん、なんでもない」

そう、と一歩引いてしまうのは彼女にとって良いことなのか、それとも。

「明日まで一人で大丈夫そう?」
「……えぇ」

迷う亜美を置いて発せられた問いかけに、思わずそう答えてしまった。
今度こそ本当に助けてとは言えなくなって、遠慮がちに彼女が終わりを告げるのを受け入れた。
ぷつりと無機質な音の後、単調に響くビジートーンにこれ以上誰かと連絡を取る気力も失せて。
限界、と訴える身体に任せ、亜美は思考を手放した。


次に亜美の意識を叩いたのは、来客を告げるチャイムだった。
一度目は夢かと思ったその音も、さすがに二度目ともなれば現実であると認めざるを得ない。
起きなくてはという思いと、身体が主張する倦怠感が一瞬だけぶつかりあって、亜美は緩慢な動作で身体を起こす。
重たい身体を運んでいった先で、モニターの向こうの人影にはっきりと亜美は覚醒した。

「な……んで」
「え? だいぶ辛そうだってレイに聞いたから」

頭を掻くのと同時に、がさがさとビニールの擦れる音がした。
彼女のことだ、わざわざ買い物に行ってきてくれたのだとしても不思議はなかった。

「すぐ、開けるわ」

おぼつかない指先で開錠をし、待つこと数秒。

「本当に辛そうだね」

顔を見るなりそう言って、いいから寝てなよ、とベッドに押し込まれて。
彼女は台所借りるね、と言ってそのままドアの向こうに消えてしまった。
ベッドから見える景色は傾いたままさっきと何ら変わらないのに、ざわざわと内側が忙しい。
それから目を反らすように仰向けになって、片腕で視界を覆う。
それでも耳の奥で響く重低音は、きっと熱のせいだろうということにした。
しばらくそうしていただろうか、不意に耳元でかたりと音がして、薄く目を開いた先でやっぱり彼女はそこにいて。
皿に盛られているのは恐らくりんごだろう、食べられる、と問われて、けれどまだ疼く頭がそれを拒んだ。

「ゆっくりでいいよ」

そう言いながら、彼女が横に座る気配がした。

「どうして、来てくれたの?」
「え? そりゃまあ、レイに連絡もらったから……」
「……それだけ?」

彼女が戸惑ったのが分かって、今ここで言うことではなかったということくらいは弛んだ頭でも理解できた。
けれど今更、忘れてとも言えないまま。

「友達が辛そうなら、助けるだろ?」
「そう、ね」

そう認めながら、頭ではないどこか奥底が悲鳴を上げるように痛んだのは、きっと熱のせいでも気のせいでもなかった。
この話はおしまい、とでも言うように頬にあてられた掌を、拒むことができないままで。
彼女の体温が低いのか、自身の体温が高いのか、いずれにしてもその温度差が今は心地良い。

「だいぶ、熱があるね」

それに小さく頷きながら、これが電話でなくて良かったと思った。
少しでも息を吐けば、それよりも多くのものが堰を切ってしまう。
それは予感ではなく確信だった。

「……大丈夫?」

頬を撫でる指先が優しすぎて、思わず空いている手でそれを掴む。
言葉にすることもできなくて、指先の力で大丈夫だと応える――伝わってほしいと願った。

「切れば食べられる果物とか、あと軽く料理も作ってきたから……食べられそうだったら食べて」

勝手に冷蔵庫開けちゃってごめんね、とそういうところは相変わらず真面目で、その距離感が寂しいなんて言えなくて。
代わりに大きく深呼吸をして、一気に言葉を吐き出した。

「ありがと」
「うん」
「も、大丈夫だから」
「え?」

視界を覆うこの腕の向こうで、彼女はどんな表情をしているのだろう。
繋がったままの指先は強張ったように感じられたが、その声色はいつものように穏やかで。

「何言ってるのさ……このまま放っとけないだろ」

なんとなく、彼女ならそう言うだろうと思っていた。
彼女は、友達を――もっと言えば一度繋がりを持ってしまった人を、放ってはおけない人で。
誰にだってそうやって優しくできるだけの包容力を持っていて。

「本当に、大丈夫」

けれど、そこに甘えてはいけない――期待してはならない。

「母も、明日の早朝には帰ってくるはずだから」

それはつくづく拙い誤魔化し方で、どこまで彼女が信じてくれたのかは分からない、けれど。

「……そっか」

それと共に、諦めたように解けた指先に、少しだけ安堵したなんて言ったら彼女は少しでも悲しんでくれるだろうか。

「あんまり、無茶しちゃ駄目だからね」
「えぇ」
「ホントに?」
「……うん」

あくまで交わらないままの視線に、言い訳するように軽く咳を一つ。
カーペットに吸われる足音が遠ざかっていき、扉が閉まる音を確認して亜美はゆるりと腕を外した。
ベッドの脇に残されたのは真っ白なりんごの欠片、整然と切りそろえられたそのシルエットに彼女の器用さを想う。
それを口に含んだ瞬間の甘さに、やっと思いが頬を伝い落ちた。






お久しぶりですひるめです。
片想いとか一方通行っていいですよね……って思いつつ、はい。
体調崩すと体調悪いお話が書きたくなるのはお約束……何回亜美ちゃん体調崩すのって感じですが、はい。
posted by ひるめ | 19:40 | まこ亜美 | comments(0) | trackbacks(0) |
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