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拍手更新
ひるめです。
Crystal放送開始しましたね、と言う話題は置いておいて、拍手更新です。
やっと半分…?くらい、という遅筆具合。
セラムン放送開始くらいまでに完結させたい、と思っていた自分の中での目標はどこへやら…。

続きから前回のログです。






窓から入り込んだ風が、ぱらぱらとページを巻き上げていく。
がく、と派手に船を漕いだ衝撃で、ジュピターはまどろみから目覚めた。

「……あ……」

目の前に広がる文字の海。
仕事以外でほとんど文書を読むことのないジュピターにとって、専門的な知識が並ぶ医学書は睡眠薬のようなものだった。
どこまで読んだかと文字を追ってみるが、どこまで辿っても読んだ記憶がない。
凝り固まった体をほぐそうと伸びをしたところで、後ろからかけられる声にジュピターは動きを止める。

「ジュピター、何してるの?」
「あぁ、プリンセスか」

邪魔しちゃった、と聞く彼女に、そろそろ煮詰まってたところだからと笑う。
マーズの言葉に思わず資料室に駆け込んではみたものの、そもそもの知識が足らなくては何を調べて良いのかも分からない。

「珍しいね、ジュピターがこんなところにいるなんて」
「そうか? ……まあ、そうかもな」」

中身のない返事をし、ちらりと見えたセレニティの表情はどこか浮かない。
きっと、そんな会話をしに来たのではないのだろう。

「……どうした、そんな顔して」

座りなよ、と椅子を進め、素直に従うセレニティ。
いつもの爛漫さの失せたその横顔に、ジュピターの心が鈍く痛む。

「……マーキュリーに、何かあったの?」
「へっ」

思わず、間の抜けた声が漏れる。
まさか彼女の名前が出てくるとは思っていなかった。
さすがはプリンセスといったところか、こういう時に見せる洞察力は誰より鋭い。

「あいつに、会ったのか?」
「ううん、そうじゃないの……会わせてもらえないから」

何かあったのかと思って、と。
そのしょんぼりとした姿に、本当のことを話すか否かジュピターの中で一瞬の葛藤があった。
しかし、妙に聡い彼女のこと、どうせいずれは知ってしまうだろう。
人から伝え聞くよりは、自分がきちんと話す方が良い。
そこまで考えて、ジュピターは口を開いた。

「今のマーキュリーには……心が、ないんだ」
「心?」
「そう、心だ」

確かめるように口にしたところで、その言葉はジュピターにもそのまま返ってくる。
頭では分かっていたはずのことが、形にした瞬間に重たい事実に変わる。

「心が、ないって……どういうこと?」
「それが――」

どう、と問われても、見たままを話すことしかできなかった。
目を閉じて思い浮かべたマーキュリーの表情は、どこまでも覇気がない。
何を見ても、聞いても。
仕事以外の話題では、話しかけても生返事しか得ることができない。

「嘘……嘘!」

ショックからかそのまま部屋を飛び出していこうとするセレニティを、ジュピターは制止した。
今の状態で二人を会わせても、きっとお互いにとって良いことにならないだろうから。

「離してよ……離して、ジュピター」
「すまない、セレニティ……でも、今のアンタじゃ受け止めきれない」

それでも感じる軽い抵抗、しかしジュピターは構わずセレニティを引き寄せた。
そのままセレニティを腕の中に収め、諭すように囁いた。

「大丈夫だから。マーキュリーは、あたしたちが絶対に何とかするから」

セレニティの体の緊張が徐々に緩んでいくのを待って、そっと彼女を解放する。
本当に、と問いかける瞳に、大丈夫、と笑いかけて。
そこで初めて、こんな風に笑ったのは数日ぶりかもしれないと思った。

「だから、落ち着いて。今はまだ、あたしたちも何が起こったのかわかってないんだ」
「うん……」

セレニティを座らせ、ジュピターもその隣に腰を落ち着ける。
ジュピターの言葉にいくらか安心した様子であるとはいえ、セレニティの表情は依然暗いままだった。
こんな表情をさせたかったわけではないのに。

「何か、手がかりとかないのかな」
「マーズは、心はそう簡単に消えないって言ってた」

その言葉に、セレニティが何かを思い出したように、あ、と声を漏らす。

「お母様は、心と体は簡単には切り離せないものだって言ってたわ」
「クイーンが、か……」

不意に、彼女の聡明な母親の顔が浮かんだ。

「体だけ残して、心だけを消し去ることはできない、か……」

ジュピターが納得したように呟くと、セレニティもそれに併せて首肯する。

「あとね……私、もう一つ聞いたことがあるの」
「もう一つ?」

ジュピターの問いに、セレニティは一瞬口ごもった。
話して良いものかどうか逡巡するように、さ迷う視線。
しばらくの沈黙の後、セレンティは意を決したように、ある単語を口にした。

「銀、水晶」

魔法の呪文、もしくは祈りの言葉をひっそりとを口にするような静けさで。
それでも、その言葉は確かにジュピターの耳に届いた。

「銀水晶……?」
「そう。お母様が、銀水晶は魂の力を高めるものだって言ってたの」

だから、もしかしたら、マーキュリーの中に僅かに残った魂を呼び起こせるかもしれない。

「まだ、ちゃんと使ったことはないけどもしかしたら……」

銀水晶が安置されている場所も知っている。
クイーンの血を引く者であるから、自分にだって使えるはず。

「早まらないで」

凛とした声が、勢い込んで語っていたセレニティを制止した。

「マーズ……」

いつからそこにいたのか、図書館の入口からかつかつと現れるマーズ。

「銀水晶は大事なものよ。それに――」
「私じゃまだ、力不足?」

きつく握られる拳に、セレニティの苛立ちを見た気がした。
マーキュリーが大変な時に、力になれない苛立ちを。

「そういうわけじゃ」

フォローしようと言葉を探すマーズだったが、それはセレニティを逆なでしただけのようにも見えた。
相変わらず嘘をつくのが下手だな、とジュピターは一人思う。
マーズは、銀水晶を使えば何が起こるのか知っている。
だからこそ、セレニティには安易に使わせない――それは、彼女なりの優しさ。
しかし、それを理解するにはセレニティはあまりに幼く、そしてマーズは不器用すぎた。

「私じゃ、ダメなのかな……」

震える語尾が、誰にも届かないまま地に落ちる。

「私、何もできない……マーキュリーが大変なことになってるのに、銀水晶の力もろくに使えない……!」
「落ち着け、セレニティ」

堪らず発せられたジュピターの声も聞こえないかのように、セレニティは声を荒げた。

「私がみんなに守られる理由なんて、本当にあるの?」

自分のために誰かが傷つくのは、きっとセレニティには耐え難いこと。
今にも泣き出しそうなセレニティ。
まずい、とジュピターが口を開きかけたのと、セレニティの額に白い輝きが宿ったのとは同時だった。

「だめっ――!!」

マーズが鋭く叫び、セレニティの華奢な体を抱きすくめる。

「セレニティ! マーズ!」

二人を包む輝きが増し、容赦なくジュピターの目に突き刺さる。
だが、それも一瞬のことだった。
ジュピターがそろりと瞼を開けると、肩で息をするセレニティと、その足元に頽れるマーズの姿があった。

「マー、ズ……マーズ、マーズ!!」

ふと我に返ったように、セレニティが激しくマーズを揺する。
とんでもないことをしてしまった、と、その横顔は先ほどとは別の意味で泣きそうで。
そんな彼女の手を、ゆるりと包むマーズの手。

「……大、丈夫、だから」
「マーズ、お前……」

セレニティの手を借りて、マーズはゆっくりと身を起こす。
そして、そっとセレニティの頬を両手で包んだ。

「……使命だからってだけじゃないわ」

そんなものに命なんてかけられないわよ、と。
マーズはそう絞りだす。
器用に言葉を操るヴィーナスを思うと、マーズの言葉はあまりに拙い。
だからこそ、彼女の言葉は確かな重さを持って響いた。

「みんな、あなたの心の輝きに惹かれてやってくるのよ」
「心の、輝き……?」

心の輝きは命の強さ。
自分だけでなく、他人をも照らす優しい強さ。
そんなの、と否定をするセレニティに、聞きなさい、とマーズの厳しい言葉が重なった。

「貴女は、そのままで良いのよ……セレニティ」
「誰の力にも、なれないのに?」
「そんなことないわ」

そこで、マーズは歯痒そうに顔をしかめた。
その様子は、喉まで言葉が出かかっているのに形にならない、というようで。

「だって、マーズを傷つけちゃった、のに」
「傷ついては、いないわ……ちょっと、強い力をまともに受けてしまった、だけ」

だから大丈夫よ、とマーズが笑顔を浮かべる。
それにようやく安堵したのか、セレニティの体の力が抜けていく。
その背中を撫でながら、ジュピターもマーズの言葉を助ける。

「セレニティ、アンタはそれだけで希望、なんだよ」

あたしたちみんなの。

「いるだけでみんなを照らす、アンタの母親と同じような光を、あんたも持ってるんだ」

それに惹かれて、皆この白く輝く星に焦がれるのだ。


セレニティを部屋に送り届けたところで、ジュピターはマーズに呼び止められた。
セレニティのいる前では言えなかったのだけど、と前置きをする彼女の表情はどこか深刻な色を帯びていた。
人気のないところへ、とジュピターは自室へマーズを招いた。

「で? 何か、見えたのか?」
「それが……はっきりと、しないのだけど」
「珍しいな。アンタのヴィジョンが曖昧なんて」

話してみなよ、と言いながら紅茶を勧める。
マーズはそれを一口すすると、どこから話したものかと迷うように口を開いた。

「私、今日セレニティから感じた白い光を……前にも一度、見たことがある気がして」
「あの光を……?」

ただ、それがいつかはっきりしなくて、とマーズは首を傾げる。
ジュピターの記憶では、あの光を見るのは初めてのはずだった。
とすれば、マーズがそれを体験したのは、ジュピターが月にやってくるよりも前の話、ということになる。

「あれは……あの光は、銀水晶……?」

朧な記憶を手繰り寄せるように、マーズの視線が遠くなる。

「あそこにいたのは……クイーン……それから……」

次の瞬間、何を思い出したのか、マーズの瞳が見開かれるのが見えた。

「……マーズ?」

ジュピターは恐る恐る呼びかける。
そんなジュピターの声が届いているのかいないのか、マーズは思い出したことを確かめるように言葉を継ぐ。

「あそこには……ヴィーナスも、いた」
「ヴィーナス……?」
「クイーンが、目の前にいて……私の隣には、ヴィーナスが、いた」

そして白い光が、とうわ言のように呟いて。
そこで記憶が途切れている、ということは。
その場にいて、何が起きたのかを知っている人物はマーズを除くと二人しかいない。

「あいつ、何か知ってるってのか」
「……分からないけれど……」

だが、銀水晶の力でマーズに何かを施した、そのことは事実だろうと思えた。

「ヴィーナスが、私に……何をしたっていうの……?」

そのままの勢いで、部屋を飛び出すマーズ。
ジュピターの制止は聞こえないかのように、ヒールの音が遠くなる。

「大丈夫かよ……」

しかし、事情を知らないジュピターにはどうすることもできない。
首を突っ込むべきかいなか、少しだけ悩んでジュピターも後を追う。
ヴィーナスがマーズに危害を加えるなど考えたくもないが、あの食えないリーダーのこと、何をしでかすか分からない。


* * *


「……マーキュリー」
「なんでしょう」

振り返る瞳には、相変わらず色がない。
それでも構わず、ヴィーナスはマーキュリーの右腕を掴んだ。

「あなたは、私が必ず――」
「活動能力の、限界です」

ずるりとヴィーナスの手からすり抜ける、マーキュリーの腕。
機械的に閉じられていく瞼。
その何もかもが、彼女が物になってしまったのだと語っているのに。
目を閉じて横たわるその姿は、どこまでも穏やかな人間のそれと変わらない。

「こうして見ると、何も変わってないように見えるのに」

初めて出会ったあの日から、気づけば随分と遠くまで来てしまったようだ。

「いろんなことが、あったわね」

その度に、乗り越えてきたと言えるのだろうか。
いやむしろ、受けたショックに蓋をして、見ないようにしてきただけなのかもしれない。
あの時だって、きっと。
そっと撫でたマーキュリーの頬は驚くほど冷たく、きっとここも彼女のオリジナルではないのだろうなと思う。
触覚を失い、感情まで失って、物に成り下がってもなお、マーキュリーは美しかった。

「ジュピターが、貴女を取り戻すって必死よ」

もちろん私だって、と付け加える。
その言葉は、マーキュリーにではなく、自分に向けた言葉。
ある種の誓い、いや決意。

「不思議なの……ジュピターなら、やれるんじゃないかって気さえしてる」

マーキュリーが自分自身にかけてしまった鍵を、力づくにでも解いて。
彼女なら、マーキュリーを取り戻してくれるんじゃないかって。

「でも、あの子はまだ未熟で……そして、知らないことが多すぎるわ」

貴女についても、とヴィーナスは独り言ちる。
マーキュリーとジュピターが出会ったのは、マーキュリーが触覚を失った後。
つまり、そこに至るまでにあったことを、彼女は知らない。

「教えるつもりもないんだけどね」

そんなこともあったわね、と彼女が起きて笑ってくれたなら、どんなに良かっただろう。


その夜、ヴィーナスは夢を見た。
夢というより、昔の記憶を再生しているような体験だった。
胸が締め付けられるようで切なくて、まだ自分があのことを引きずっているのだと思い知った。
その時、勢いよく開く部屋のドアに、ヴィーナスは微睡から引き戻された。

「何?」

敵意を感じる気配ではない。
マーキュリーのベッドに預けた体重はそのままに、突然の来訪者に問う。

「ヴィーナス……あなた、何か私に隠していることがあるんじゃ」

厳しいマーズの視線が刺さった。
そんなものはヴィーナスには効かないと、そろそろ学習すれば良いものを。

「あら、何のことかしら」

薄い笑いでそれをかわし、ヴィーナスはマーズに向き直る。
その態度が気に食わないのか、マーズは更に噛みついてきた。

「しらばっくれるつもり? 分かってるくせに」
「人に何か尋ねるのに、その態度もどうかと思うけど」

ヴィーナスの言葉に、目に見えてマーズの苛立ちが膨れ上がる。
じゃあ言い方を変えるわ、とマーズが再度問うた。

「昔……私に、何かしたでしょう」

何か、というところで、ヴィーナスには薄らと察しがついた。
今日図書館で起きたこと、そしてあの光の中で見たもの。
マーズの語ることは、全てヴィーナスの記憶と一致する。

「あの光……セレニティの力、あれは銀水晶の力ね?」
「そうかもしれないわね」
「私、あれを、前にも見たことがあるわ」

思い出したの、と語るマーズに、ヴィーナスは目を細めた。
とうとう、というべきか、ようやく、というべきか。
語るべき時が来たのだ、と思った。

「貴女の力をね、ほんの少し抑えさせてもらっているだけよ」
「力、ですって……?」

マーズが驚くのも無理はない。
そんな自覚はなかっただろう。
抑えられた状態のまま、今まで生活していたのだから。

「所謂、五感ってやつをね……まあ、ほんの少しずつ」

かつん、と鋭いヒールの音が響く。
と思ったときには、ヴィーナスの襟ぐりは凄まじい力で引っ張り上げられていた。

「そんなの、勝手にやっていいことではないわ……っ!」

何を言っても聞く耳を持ってはくれなさそうだった。
仕方ない――マーズもあの頃のマーズではない。

「戻して、ほしい?」
「当たり前、でしょう……?」
「……後悔することになっても、知らないわよ」
「そんな、こと」

そう、と笑んで、ヴィーナスは人差し指をマーズの額に突きつけた。
彼女が望むなら――そう、マーズ本人が望むのなら。
その時は、この呪縛を解くと決めていたから。

「目、瞑っていて……ついでに、耳も塞いでいた方が良いかしら」
「何、言って……」

尚もヴィーナスに歯向かおうとする勢いが、一気に薄れた。

「何、よ、これ……!」

頭が、とだけ残して、マーズの身体が糸の切れた人形のようにその場に落ちる。
ヴィーナスは何も言わず、彼女の身体を抱え上げた。
不意にフラッシュバックする記憶。
あの時、こんな風に抱きかかえたのは、マーキュリーの細い身体だった。
posted by ひるめ | 00:37 | 拍手ログ | comments(0) | trackbacks(0) |
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